「しかし、随分と派手にやったわね……」
リーロンの目の前には台風でも通ったかのような惨劇の後があった。
バッタ達は、リーロンの指示でせっせと周囲の修復作業を進める。
「でも、みんなはダメそうね……」
リーロンの後ろには屍のように「う〜う〜」とうなりながら倒れる面々の姿があった。
男性陣はアキトを除き、ほぼ全滅。
そして、肝心のアキトはと言うと……
「ま、アキトには悪いけど頑張ってもらいましょう。これ以上、壊されたら正直たまらないしね」
紅蓮と黒い王子 バレンタイン〜ホワイトデーまで企画SS
番外第4話「みんなの想い(チョコレート)を受け取って欲しいだけなのよ」
193作
両手を両足を縛られ、鉄製の椅子に縛られているアキト。
その周囲にはラピスとヨーコをはじめ、キヤル、キヨウ、キノンと女性達が取り囲んでいる。
「まて、話せばわかる。たしかに逃げたのはまずかった。だからと言ってこれは……」
「大丈夫よ、アキト」
笑顔でアキトを見るヨーコ。
「別に何かをしようとってわけじゃないから、ただ、みんなの想い(チョコレート)を受け取って欲しいだけなのよ」
そう言いながら、一斉にチョコレートをアキトの口に持っていく女性達。
その後、アキトの言葉にもならない悲鳴がユーチャリス中を駆け巡ったという。
後に男性達の間で語られることになる。バレンタインのあの話は本当だったのだと。
その日の夜、ラピスはアキトの部屋に先回りをしてゴソゴソと何やら準備をしていた。
その白い肌の上には下着も身につけず、大事なところを大きなリボンで隠すように身体をラッピングしている。
これはラピスが雑誌と、キヨウの言葉で導き出した究極のプレゼントだった。
バレンタインというのはチョコレート以外にも、大好きな人に大切なプレゼントを贈ることがあるという。
そこでアキトに喜んでもらおうと、大きく曲解した考えを導き出したラピスは、究極の贈り物を思いついた。
名付けて、「ワタシガプレゼントダヨ」大作戦!!
アキトが来るのを今か今かと待ちわびながら、何かを妄想して身をくねらせるラピス。
暗い部屋の中で、獲物を待ちわびるようにラピスの金色の瞳は輝いていた。
「アキト、大丈夫か?」
机に突っ伏し唸るアキトを心配してキヤルが水を差し出す。
「ごめん……さすがにあれはやり過ぎたと思う。ヨーコも姉さん達も反省してたみたいだし……」
気を失うまで口に詰め込まれたチョコレート地獄。
いくら味覚がほとんどないとは言え、腹が膨れないわけではない。
「いや、皆が悪いわけじゃない。せっかくのみんなの好意から逃げ出した俺が悪かったんだ……」
女性の想いを蔑ろにしてはいけない。この時、アキトは女性の怖さを真の意味で感じ取っていた。
「ところでアキト、その……」
いつもの元気ではっきりとしたキヤルとは違い、何か言いにくそうにもじもじとしている様子に何かあるのかとアキトは心配する。
「どうした? 何か、言いにくいことでもあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……これ……」
キヤルが両手で差し出した物体。黒い爆弾の様な塊を目の前に差し出され、アキトは更に困惑する。
「これ、アキトの為に精一杯作ったんだ! だから、よかったらっ!!」
先程の一件で、チョコレートをアキトに渡し損ねていたキヤルは、思い切ってアキトにその想いをぶつける。
だが、当のアキトはと言うと。
(爆弾……だよな? 精一杯俺のために作ってくれたというのは、これでガンメンと戦ってくれということなのか?)
と、それがチョコレートであることすら理解できなかったアキトは全く見当はずれの答えを導き出していた。
「ああ、ありがとう。いざと言うときに使わせてもらうよ」
「いや……そうだよな。さっきあれだけ食ってたんだもん、今は食えないよな」
「まあ、腹は一杯だが……(さすがに爆弾は食えないと思うが)」
笑顔で全く見当はずれの会話をする二人。
ハハハと乾いた笑い声を上げながらも、アキトの身体を気遣ったキヤルに促され、アキトは自分の部屋に戻ることにした。
――その途中。
「アキトじゃねえか、ちょうどいい。一杯どうだ?」
酒を片手に持ったキタンが部屋に戻ろうと廊下を歩いていたアキトを呼び止める。
「いや、俺は……」
さすがに先程のチョコレートが胃に残っているアキトはそんな気分になれず、その場を離れようとするが、後ろからカミナにその肩をつかまれてしまう。
「言うなっ! わかっている。辛いことがあったんだよな……」
先程のユーチャリスを駆け巡った悲鳴を聞いていたカミナとキタンは、先刻のバレンタインの悪夢を聞いていたこともあり、アキトへの同情の気持ちで一杯だった。
「いや、確かに辛いといえば辛いんだが……(おもに胃の調子が)」
――ガシッ!
両脇からカミナとキタンに腕を抑えられ連行されるアキト。
その表情はかつてないほどの悲壮感が浮かび上がっていた。
「あ、そういや」
アキトにチョコレートを渡せたことで嬉しさが一杯だったキヤルは、何かを思い出したようにその歩みをアキトの部屋へと変えていた。
「へへ、忘れるところだったぜ。たしか、その……チョコレートを渡したらあ……愛の告白をして、キ……キスしていいんだよな?」
ガチガチと両手両足を同時に出しながらも、アキトの部屋に向かうキヤル。
紆余曲折を経て、都合の良いところだけ伝わったキヤルには、今は次の目的を果たすことで頭が一杯となっていた。
アキトの部屋の前に辿り着いたキヤルは大きく深呼吸をする。
「ふぅ〜〜〜ハア……」
様々な想いを頭に過ぎらせながらも意を決したのか、勢いよくそのドアを開いて中に入った。
「アキトっ!!!」
――ガシッ!!
部屋に入った瞬間に何かと抱き合う形となるキヤル。
暗がりながらもそれが人だとわかると、緊張したキヤルはアキトと勘違いしてその次の行動にうつる。
一方、アキトを待ち構えていたラピスも部屋に入ってきたキヤルを、緊張の余りアキトと勘違いしていた。
そっと近づく二人の唇。
お互いにアキトだと思い込んでいた二人は、一気にその禁断の世界へと足を踏み入れる。
(ああ、俺ついにアキトと……アキトと……)
(アキト……アキト……)
長い沈黙の末、そっと目を明ける二人。
そして、段々と目が慣れてきた二人は、お互いの姿を確認するとその場で固まってしまった。
「ラ、ラピス……なんでお前が……ってかその格好っ!!」
「コレハ、ソノ……ソレヨリ、キヤルダッテナンデココニ!?」
その後、数十分、言葉にならない言いあいを続けた二人は、お互いに顔を真っ赤にしながらその場に立ち尽くしていた。
その頃、アキトはと言うと……
「まあ、あれだ。どんな恨みを買ったのかはしらねえが、災難だったなアキト(女の恨みを買うと怖ええな)」
「まったくだ。まあ、あれは単なる嫉妬なんだろうが……(もっとも男達に追いかけられたことよりも、女性達の方が怖かったが)」
「でも、まあ、命があっただけでもよかったじゃねえか(ヨーコにしろ女どもは獣人よりも化け物ばかりだ……)」
キタンとカミナと一緒に酒を飲み交わしていた。
お互いに真実を勘違いしたままに……
……THE END?
あとがき
193です。
バレンタイン〜ホワイトデーまで企画番外編SS第四話。
今回で一応、バレンタイン編は終わりです。
とは言っても、来週からホワイトデー用のを投函予定。
本編の方でも書いておりますが仕事が忙しい状態でして。ある程度、ご勘弁を。
イベントの方もある程度進んできたので、こちらも色々とやって行きたいんですが時間がないのも事実。
まあ、身体を壊さない程度に何とか頑張っていく所存です。
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