バレンタインSS?
しっとマスク復活の巻
さて時は200X年の冬、核によって地球がやばーいことになった世紀末ということにもならず、すンごく普通の青い地球。
その一大陸を構成する小さな島国の、そのまた小さな某所のビル群。
デートスポットとして有名なここは、今日特にアベックで溢れかえっていた。
右を向けばアベック、左を向けばバカップル、前を向けばピンクオーラ、後ろを向けばイチャイチャオーラ。
はっきり言ってウザい。この上なくウザい上に邪魔になっている。
会社帰りのお父さんたちや未だに独り身の方々のお怒りを買っているのだが、奴らはオーラに守れて気づかないのだ!
「ジュン君……」
「ユキちゃん……」
ご多分にもれず互いの手を取りあってキャッキャウフフしているこのアベックもまた然り。
そもそも、ここにアベックが溢れかえっているには理由があった。
本日はいわゆる一つのブゥゥゥッゥゥワレンタイン! デエエエエエェェェェェェイ!!なのであ〜る。(CV:強力若本)
「あの、ごめんね? こんなところに呼び出したりして」
「べつにいいよ」
「あの、ね……その、渡したい、ものが、あって……」
頬を赤らめて恥ずかしそうに指をからめて、上目遣いで見上げては視線をそらす。
お前らどこの青春を謳歌中のアベックだよと言いたくなるほどの初々しさ。
(くせええええ! こいつはラブ臭以下の臭いがプンプンするぜェ!)
周りにいる怒り心頭な人たちの心の声です。
他のアベックも程度の差はあれど、どこもかしこもラブラブオーラを撒き散らしています。
迷惑ですねぇ。鬱陶しいですねぇ。むかつきますねぇ。
しかし彼らには何を言おうと馬の耳に念仏馬耳東風猫に小判でぬかに釘。
自分たちの世界に入った奴ほど手ごわい者はいないのだ。
(くぅ! この現実をぶっ壊してくれる猛者はいないのか!?)
しかし声には出さない。いや出せない。
出したところでアベックの皆様方からひんしゅくと独り者がちね! という視線をいただくに決まっている。
実際それを実行した猛者が数人、滂沱の涙を流して逃げ去っていったのだ。
うらむなら独り者の己をうらむんだな! ということです。
だがしかし! 神はそんなかなしー彼らを見捨ててはいなかったのです!
「例え時代が変わろうとも、人の心には決して変わらぬものがある」
「な、なんだぁ!?」
※BGMは某天空宙心拳のお兄さん登場を流すといいかもね?
「いかなる場合であろうとも彼の心に炎が宿る限り、我々は『悪』に立ち向かわねばならない。
『悪』とは周りの状況も省みずにキャッキャウフフでギシギシアンアンしようとする愚かな者たちのこと。
だが見るがいい! 貴様らのような『悪』を憎く思う者たちの心を!
人それを……『しっと』と言う!」
どこからかライトアップされたビルの屋上を見よ!
ホワイトバレンタインに似つかわしくない野太い声! もう暑苦しくて背景に炎が湧き上がるほどの魂!
だがしかし! それこそが彼らの正義の象徴! 彼らに宿る燃え滾る心の表れ!
「ど、どこだ!?」
「とぉっ!!」
見よ! レスラーもかくやと言わんばかりの肉体美!
見よ! 心に宿る熱い魂を表したマスクに輝くファイヤーのエムブレム!
「誰が呼んだか! 誰に呼ばれずとも! 誰かに呼ばれなくたって!」
あらん限りのしっとの心を燃え上がらせて、高層ビルの上から舞い降りた一陣の戦士!!
さあ呼ぼうではないか、我らの救世主にして正義の味方の名を――!!
「誰かがしっとに狂うとき、しっとマスクを呼ぶ合図!!」
熱い魂の前に服はいらない! いるのはしっとの心とアベックを憎む心のみ!
「我こそ悪のアベックに天誅を下す正義の使者!」
額に輝くしっとの文字! 天を貫くしっとの炎!
「しっとマスク一号、参上!!」※1
実にどうでもいいけど、アベックってもう死語だよね?
あ、それと今回では『しっと』で統一しているから読みづらくても我慢してください。
それでは本編へどうぞー
さて、高層ビルの屋上(ライトアップ付き)から飛び降りたしっとマスクという名の変態に呆然となる人々。
だってレスラーや格闘家の方がするようなぶぅめらんなパンツ一枚に、マスクのみとなれば誰がどう見ても変質者です。
「ぬう、しっとマスクだと……」
「し、知っているのか雷電!?」
「ああ。今から十年以上も昔に実在したと言われる伝説の戦士の名だ。
彼らはモテない男たちのしっと心を察知した時に現れ、アベックたちを片っ端から潰していくという。
特に夏の砂浜、夏祭りの神社裏、クリスマスイブ、そしてバレンタインには必ず出現すると言われていた。
解散されたと聞いていたがまさかこの目でその姿を見ることになろうとは……」
「それってただのしっと狂い――」
「シャラアアアアアアップ!! お前に、お前なんかにモテない男たちの気持ちがわかるものかァ!!」
「そんな滝のように涙を流さなくても」
劇画時代の作風でドアップ+漢の涙は実に鬱陶しいものです。
某魁で漢だらけの塾とは何一つ関係ありませんのであしからず。
「そうだそうだ! モテる奴は氏んでしまえ!」
「いっそ死んぢまえ! 氏んぢまえじゃなくて死んぢまえ!」
いわゆる負け組に分類されてもしかたない男たちの、悲しくも魂のこもった絶叫が虚しく響きわたる。
「フオオオォォォォォォォォォォォ!! たぎる! 実にたぎるぞォ!!」
周りのブサメン及びモテナイ君の魂の咆哮、しっとの力がしっとマスク一号の右腕に集まっていく!
その力は雄大にして強烈! 轟々と炎が渦巻き燃え盛る!
それは正にしっとマスクにのみ許された究極にして絶対の奥義!
俺のこの手が嫉妬で燃える!
愛を砕けと轟き叫ぶ!
くらえ! 涙と怒りと憎しみのォ!
ぶわぁぁぁぁぁくねつっ!
しっとぉ!
フィンガァァァァ!!
ガシッ! と指先が掴んだ(強奪した)ものは綺麗にラッピングされた小さな小箱。
この時期! この季節! このタイミング! ここまで揃っていれば中身が何であるか賢明な方もそーでない方もよくわかるでしょう。
しぃぃぃぃっとぉ! エンド!!
しっとの炎で包まれた手が、それを一気に握りつぶした!!
「あああああああああああ!! ジュン君に渡すチョコレートをぉぉぉぉ!!」
あの黒かったり白かったりなんかトッピングされたりする甘い時もあれば苦くてちょっぴりホロ苦い思い出をくれる。
そうチョコレートである。
ちなみに作者は友人からカカオ99%ぐらいの渡され、それと知らずに食わされて死にかけました。
あれは人間の食べるものじゃねえ……
閑話休題
「フ、また一つ『悪』を滅ぼしてしまった」
一仕事終えたリーマンやドカタの兄ちゃんよろしく、マスクに浮かんだ汗をぬぐうしっとマスク一号。
なんで汗がマスクに浮かぶんだYO! とか無粋な突っ込みする輩はいますぐしっとの炎に包まれるがいいのです。
「さっすがしっとマスク! 俺たちがしたくても出来ないことを平然とやってのける!
そこにしびれる! あこがれるゥ!」
いつの間にかしっとマスク一号の取り巻きと化した雷電君が合いの手をいれました。
お隣にいた友達はすでに脱兎の如く盗んだバイク――じゃないけど、自慢の脚力で逃げ出していました。
だって友達よりも周りの目のほうが怖いんだもの。
言うならば、
「ママー、あのお兄ちゃんたち変だよー」
「しっ! 見ちゃいけません! 指差してもダメ!」
って感じ。
なので友人A(プライバシー保護のため音声と画像を加工しております)はギャラリーその○になりました。
うん、実に賢明な判断だ。
「ちょっとそこの変態!」
「変態? この私をよりによって変態だと!?」
「こんな冬の寒い日に! マスクかぶって! パンツ一丁! どこからどー見ても変態でしょうが!」
「それはどこかの紳士の役目だ。最近になって復活したらしいが、また会いたいものだ」※2
マスクの下の目(白目に見えるのでわかりません)で空を見上げ、遠くにいる元祖・変態という名の紳士に思いを馳せる。
それはしっとマスクが生まれるよりもずっと前にいた、マスクマンのお話。
でもそれは割愛。
「そんなことどうでもいいの! なんてことしてくれたのよ!!」
女の子の怒りもごもっとも。
この日のために慣れない料理、それもお菓子に挑戦し続けて約三日。
苦心と苦労の末に完成したものを木っ端微塵跡形もなく消し飛ばされたのですから。
男のほうは完全においてけぼりをくらっていますが、そういう不幸の星に生まれたような顔立ちなんで問題ないでしょ。
「だからなんだというのだ! もてない漢たちの思いにくらべればその程度、実に些末!!」
そうだそうだとしっと団候補生(現在、部下数名が契約書を持って勧誘していますが無害です)の皆様。
素晴らしきはしっと力の団結力也。
「ぬぬ! また別のしっとエネルギーを感知!」
まだ言い足りない女を尻目にしっとマスクが言う。
彼に察知できぬしっとエネルギーはないのだ。
「さらばだ諸君! しっとがあればまたどこかで会おう!!」
「二度と来んなぁー!!」
女の叫びをBGMに、しっとマスク(部下含む)は夜の闇へと消えていく。
「ありがとうしっとマスク。次は夏の浜辺で会おう」
星空夜空に浮かぶしっとマスクのサムズアップ。
とっても絵になって鬱陶しかった。
まる。おわり
ちなみに別ver
「俺のこの手が嫉妬でうなる!
愛を砕けと轟き叫ぶ!
くらえ! 涙と怒りと憎しみのォ!
シャァァァニィング! シィィィィィィット! ソォォォォォォォォォド!!
愛! 即! 斬! それが正義だ!!」
あとがきかなと思ったら負けと思っている
うん、正直いろいろとすまんかった。
だが反省はしていない。する気もない。
すべてはノリと勢いの産物なんだ。
だから色々とおかしくたって目をつむってほしい。
むしろつっこまれるとどうにもならないんだ。
なのでもう終わる。
※1 二号や三号もいつかゲスト参戦させたいと思っております。
※2 某跳躍で四角な月刊誌の二月号にありました。本当ですよ?
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